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トリュフとは1度魅せられると虜に、恋しくなってしまう媚薬のキノコ?
2021年12月22日 (水) | 編集 |
FC2 トラックバックテーマ:「個人的に第1位!イチオシのお肉料理といえば?」
この季節になると、彼は毎朝、同じ道を通る。道の端に並ぶカシやナラの木に
沿って歩きながら、奇妙な形に整えた木の枝で地面をたたく。 先端に残した
松葉以外、余計な枝葉は全て、そぎ落としている。

トントンと足元をたたいて歩く姿は、よく、目の不自由な人と間違えられる。
少し離れた場所からは、金属探知機で地中に埋もれた財宝を探しているよう
にも見えるだろう。

彼は、目が不自由なわけでも、宝を探しているわけでもない。 その視線は、
ひたすら地面へ向けられている。

さぁ、おいで。小さな翼を見せておくれ。彼は地面に向かって、そう、つぶやく。
おいで!ムスコ! ムスコとは、ハエを指す。 今は、ほとんど使われていない
古い呼び方だ。 彼は、ハエに呼びかけているのだ。

目には見えない、しかし、確かなシルシを知らせてくれと…。

トリュフを採りに行く時は、まず森で、ちょうどいい小枝を拾います。 ハエを
見つけるためにね。 木の枝で地面をたたく事で、ハエがとまっている場所を
探るのです。

ハエはトリュフの香りに気付くと、そこに引き寄せられジッとしています。だから
木の枝で地面を軽くたたいて、ハエが、どこから飛び立つか探すのです。
ブタや犬を使わない、昔からあるやり方です。

トリュフの余韻は、いつまでも消えません。 トリュフを探し当ててから、しばらく
経つと、また恋しくなって来るのです。 少し媚薬に似ているかも知れません。

突然、体がトリュフを求め始めるのです。 空が晴れ、風がやみ、程よい寒さを
感じる時、何かが私に語りかけるのです。 そろそろだぞ、と。

私を、とりこにしたのは、あの香りです。1度、魅せられると、私のように30年間
とりこになってしまいます。 あの香りがしたら、トリュフを見つけるまで、私は
テコでも動きません。 宝くじの当たり券を見つけたようなものですから。

もしかしたら大当たりかも知れない。 とにかく、いい香りです。 1度嗅いだら
忘れられるものじゃありません。 三月経っても、まだ思い出します。

トリュフの香りを嗅ぐのは、香水を嗅ぐのと同じです。 香水を嗅ぐ時は、目を
閉じて、心は、どこか遠くを漂いますよね。 トリュフの場合も同じです。

シェフはトリュフを手に取ると、目を閉じて香りを吸い込み、想像するのです。
トリュフは、私たちを別世界へ、いざなってくれます。 香りを嗅ぐだけで、どう
調理するか、どんな食材と合わせるか、創作意欲が湧いてくるのです。

香りがシェフの脳を刺激して、レシピに新たな可能性をもたらしてくれます。
トリュフの世界は複雑で、一筋縄では行きません。 1つの袋の中に質の劣る
トリュフが混じる事もあります。 彼女は、信頼できる仲買人です。

トリュフのシーズンは、彼女の電話から始まります。 最高の季節ですよ。
トリュフの旬とホリデーシーズンが、一緒にやって来るのですから。

トリュフを買う時には、神経を研ぎ澄ませます。 こちらは全体が茶色とグレー
なのに対し、こちらは深い黒に、白い筋が入った、いわゆる黒いダイヤです。

茶色い方は、薬品のような臭いが混じっていますが、これは土とキノコの匂い
です。 黒いトリュフが1キロ1200ユーロだとすると、茶色は1キロ400ユーロと
いうところです。 これで10キロ、1万ユーロです。 価格は毎年、変わります。

支払いは小切手です。 現金を手渡すと、生産者が強盗に襲われる危険も
ありますから、市場には私服警官が大勢います。

トリュフの知識は、両親の膝の上で学びました。 うちには常にトリュフがあり
ました。 母の実家はトリュフの生産農家で、父の家はトリュフの仲買業者
だったので、ずっとトリュフ漬けの生活なのです。

私が幼い頃から、父は毎日、車で農家に買い付けに行き、市場でトリュフを
売っていました。 父は、急に亡くなりました。 家には、たくさんのトリュフが
あったので、代わりに私が売りさばきました。

すると、私にトリュフを売ってほしいと声が掛かるようになり、この商売を始め
ました。 最初は、みんなから信用されず苦労しましたが、やがて信頼してもら
えるようになりました。 トリュフの仲買人をしている女性は珍しかったのです。

よく雷が鳴ると、トリュフが生えてくるなどと言われていますが、ちょっと眉唾な
話しに聞こえるでしょう。しかし、夏の雷雨がトリュフの成長を助ける事は事実
です。 私たちは、根っこにトリュフの菌を付着させたカシの木を植えています。

トリュフの宿り木にできたドングリを育てて苗木にし、見込みのある場所に植え
ました。 トリュフが採れるまでには、少なくとも8年くらいは待たなくてはなりま
せん。 苗を植えて10年目から15年目の間が、収穫量のピークです。

収穫できる期間は、大体、10年ほどです。 その間、木は、たくさんのトリュフを
生み出してくれます。 収穫量は、木によって、まちまちです。 すぐに、まと
まった量が採れると期待してはいけません。

Q: カシの木を100本、植えたとして、そのうち、60本からトリュフが採れれば
上出来ですよね? A: 半分以下しか採れないという事も、しょっちゅうです。

収穫までに、20年かかる事もあります。 5年以内に採れる可能性より、20年
かかる可能性の方が高いのですから、ギャンブルですね。 トリュフは、今も、
謎だらけで、運次第! 大金を手にできる事もあれば、待っても、待っても、
1つも採れない事もあります。

私は20年前、トリュフの菌がついた苗木を植えました。 子供が生まれた時に
植えたので、今年で20年です。 まだトリュフは、1つも見つかっていません。
なぜ、見つからないのか? サッパリ…。

大金が絡むため、トリュフには盗難という問題が付きまといます。今、この先の
トリュフ農園へ向かっています。 トリュフ泥棒は、警察が来る場所を避ける
ようになります。 だから私たちは、別の場所を張り込みます。

この農園は泥棒に狙われているので、パトロールしています。 トリュフ農園は
いわば、蓋の開いた宝石箱です。 鍵を開ける必要は、ありません。 掘れば
トリュフが見つかる。 悪い連中にとっては、格好の標的です。

トリュフ狩りを始めた頃は誰かと出くわす度に、身を隠そうとしては見つかって
いました。しかし、私が犬を連れていない事が分かると、見逃してくれたもの
です。 ハエなんかでトリュフを見つけられるわけがないと思っていたのです。

私が市場でトリュフを売っているのを見ると激怒して、私を捕まえようとするよ
うになりました。 トリュフ狩りは遊びです。 カウボーイと先住民の追いかけっこ
みたいなものでしょう。 私は自由に動き回り、土地を持たない先住民です。

この辺りの山は、全て誰かに買われて、所有者のいない土地は、もうありま
せん。 私は常に、人が所有する土地に入り込んでいるわけです。 法律は
土地の所有者の味方です。 私は、いつも法を犯している事になるのです。

トリュフを食べると、よく、おかしな夢を見ます。 1度も行った事がないのに、
なぜか、しっかりと記憶に焼き付いている場所があるのです。 ここからさほど
遠くありません。 そこへの細い道が、ハッキリと見えます。

トリュフ狩りが終わってから、時々、その場所を探しに行く事があります。 夢
だと分かっているのですが、奇妙な感じです。 巨大なトリュフを見つける夢も
よく見ますよ。 想像を超える、本当に大きなトリュフをね。 所詮、夢ですから。

大きなトリュフをを見つける事を目標にはしていません。 探すだけでも一苦労
なので、小さくても見つけられれば、十分、満足です。 実際、小さいトリュフを
採る方がかえって難しいのです。 丁寧に掘り起こさなくてはなりませんから。
大きい方が、みんなで分け合って食べられるので、嬉しいですけどね。

今は、山に行きます。 自然が多く残っていますから。 家と家の間は、3キロ
ぐらい離れています。 そこも、人の土地なのでしょうが、森でキノコ狩りをして
いる気分です。 トリュフ農園には近付きません。

私が行くのは人の手が加えられていない土地です。トリュフ農園は違います。
人々の労働の、たまものですから。 トリュフが生えるような場所は、放って
おくと、草木が生い茂ってしまいます。

トリュフにとって健全な状態を保つのが、私の仕事だと思っています。よく余計
な若木を間引きます。 大きく成長すれば、トリュフが死んでしまいますからね。

父は、トリュフの帝王と呼ばれました。 その呼び名は、伊達じゃありません。
この店は、トリュフ料理でナンバーワンになり、今も、その座を守っています。

最近では、誰でもトリュフについて、もったいぶらずに語るようになりましたが、
トリュフをみんなの手が届くものに変えたのは、うちの店です。他の店だったら
せいぜい一品しか頼めない値段で、うちの店ならば、コースでトリュフを楽しむ
事ができるのです。

レストランでメニューから安いものを選ぶと、周りの客に引け目を感じることが
ありますが、うちでは、そんな事は起きません。ここでは、みんなが平等です。

億万長者だろうが、誰だろうが、同じものを食べます。 トリュフは媚薬だと、
よく言われます。確かにトリュフには、人間の野生や本能に訴えかける部分が
あります。

ワインに、気候や土地の個性が現れるのと同じように、トリュフには大地の
豊かさや強い香りが備わっているのです。 香りを嗅いだだけで、体に震えが
走ります。

昔からトリュフ料理は人を変な気持ちにさせると考えられて来ました。 トリュフは
愛と切り離す事ができません。 私が生まれたキッカケもトリュフです。 真夏の
ある午後、母と父がトリュフの木の下で結ばれて、私ができました。 私の血
には、トリュフが流れているのです。

(ハエを見て) あるぞ… きっと、ある… 間違いなくトリュフだ。 あった!

料理に感動をもたらすのは、テクニックなどではありません。 感動はチームで
全力を尽くして作り出すものです。 トリュフという美しい食材を輝かせたいと
いう強い思いを込め、小さな車で来るお客様にも、高級車で来るお客様にも、
変わらぬ、おもてなしの心を示すのです。

ミシュランの評価にプレッシャーを感じるという話しを、よく聞きます。 私たちは
何も感じません。 気になるのは、お客様だけです。 どのみち、もらった
ミシュランの星を、あの世に持って行けるわけではありません。

宝探しのようなもので、何が見つかるか分かりません。 小さな虫が飛んで
いると思ったら、地面の下に、あのキノコが隠れているのです。 猛暑のあと、
しばらくの間、トリュフが、あまり採れなくなりました。