2021年12月19日 (日) | 編集 |
FC2 トラックバックテーマ:「体の変化はありますか?」
2019年、フランス北部の古代遺跡で、驚きの発見がありました。2万7000年の
時を経て現れたのは小さな女性像。 古代のホモ・サピエンスの女性レディ・
サピエンス。 実は、かつての考古学では男性優位の思想に支配され、女性
については、ほとんど検証されていませんでした。
“人類の基本が狩猟であり、つまり男性が人類の基本でした。女性は人類の
進化には、参加していない事になっていたのです”
しかし近年、世界各国の新しい世代の研究者によって、レディ・サピエンスの
実像が明らかになって来ました。 女性は参加せず、男性だけが行っていたと
考えられていた狩猟。 遺跡の調査などから、意外な事実が分かりました。
“男性と女性が、連携して狩りを行っていたのです”
更に出産と子育てに明け暮れていたとされる女性の役割にも、大きな間違い
がある事が分かって来ました。 最新の科学的分析によって、レディ・サピエ
ンスの子育てが、明らかになりつつあるのです。
“女性が生涯を通して、子育てに追われていたとは、考えられません”
そして洞窟に残された壁画の分析から、男性だけとされていた芸術活動にも
女性が参加していた事が分かって来ました。
“大人の女性が、この洞窟に足を踏み入れています”
古代の女性、レディ・サピエンス。 最新の研究から見えて来た、その素顔を
描きます。
レディ・サピエンスの実像をたどる旅。 まず、2万7000年前の旧石器時代に
さかのぼります。 こちらは、フランス南部にある、クロ・マニョン遺跡です。
最初の発掘が行われたのは、1868年。 旧石器時代の複数の人骨が発見
されました。 調査に当たったのは、考古学者のルイ・ラルテ(1840-1899)。
骨と一緒に埋められていた石器を詳しく調査し狩猟に使われた事を突き止め
ました。
“当時、狩猟は男性が行うという、先入観が支配していました。人骨の近くに
獲物とみられる動物の骨や石器があったので、男性の骨としたのです”
ところが2006年に行われた再調査によって、人骨には女性のものも含まれて
いた事が分かりました。 骨盤など、骨の微妙な形の違いによって、女性だと
判明しました。 でも、なぜ女性の存在は、見落とされてしまったのでしょうか?
“19世紀では女性の地位は認められていませんでした。女性は家にいて男性
が社会や経済に重要な地位を占めていました。そのため旧石器時代でも同じ
だろうと考えられていたのです。狩猟を行う男性こそが人類を進化させ、女性
は、家にいて子供の面倒を見ていた程度だと、思い込まれていたのです”
実は当時、このような男性中心の考え方は、社会全体に浸透していました。
こちらは、19世紀の芸術家が描いた絵画です。 家の中で子育てする女性や
男性に守られる女性の姿が表現され、女性への偏ったイメージが増幅されて
いたのです。
“当時、フランス芸術アカデミーでは、聖書や古代をテーマとする事が重要でし
た。有名な画家になるために、必要不可欠だったのです”
更に女性に求められていたのは、男性の性的欲望の対象としての役割です。
女性は、男性たちの闘いによって得られる、戦利品だったのです。
“これらの絵画は、理想の女性像をもとに、欲望の対象として描いています。
このような絵画の表現が、映画にも強く影響を及ぼしています”
こらちは、1920年代に制作された、古代の社会をテーマにした映画です。
女性は狩猟の勲章であり、男性の征服欲を満たすように描かれています。
1960年代の映画では、ビキニを着た女性が登場。 セックスシンボルとして、
くびれた体と豊かな胸を強調しています。
“これらの作品は、男性が女性に対して抱く幻想を、大いに物語っています。
それは官能的な美しさ、そして子供を守る母性です”
男性の一方的な視点で描かれる事が多かった古代の女性レディ・サピエンス
しかし、今、その真の姿が明らかになって来ています。 その手がかりとなる
のが、イタリアとフランスの国境にある、ヴェンティミーリア洞窟遺跡です。
1872年、ここで、旧石器人の埋葬跡が見つかりました。 当時の考古学者は
その見た目から男性と判断し、マントンの男と名付けました。 ところが、近年
行われた分析によって、女性だと分かったのです。
“遺跡から見つかった骨は、とても頑丈だったため、マントンの男と呼ばれまし
た。しかし実際には、とてもガッシリとした体格の大柄な女性だったのです。
私の妻が骨盤に女性的な特徴を発見し女性である事が明らかになりました”
女性だと断定する決め手となったのは、骨盤のくぼみの大きさです。 男性の
骨盤のくぼみに比べ女性では、出産の時に赤ちゃんが通りやすいように広く
なっています。分析の結果、この骨は、カヴィヨンの婦人と名付けられました。
洞窟で埋葬されていたカヴィヨンの婦人。 発掘調査によって、手厚く葬られて
いた事が分かりました。
“カヴィヨンの婦人は、一族の中で重要な地位にいたと考えられます。埋葬品
から、馬を象徴とした盛大な葬儀が行われた事が分かったからです。彼女の
顔の横には、馬の骨で出来た道具が置かれていました。更に、お墓の上には
馬をモチーフとした飾りがありました。そして近くの壁には素晴らしい馬の絵が
描かれていたのです”
他にも、カヴィヨンの婦人のお墓では、重要な意味を持つ埋葬品が見つかりま
した。 細長い石の刃。 そして、鹿の歯で美しく飾られた、かぶり物です。
カヴィヨンの婦人は、このかぶり物を身につけ、体を赤く彩られ、埋葬されたと
考えられています。
“石の刃や美しい装飾品は、遠く離れた土地まで行って、ようやく入手できる
貴重なものです。でも、なぜ当時の人たちは大切な品々を奉げたのでしょう。
恐らく、死後の世界へ旅立つ時に必要になるであろうと、儀礼品として持たせ
たのでしょう。これはつまり人々が、カヴィヨンの婦人を大いに尊敬していた事
を意味しているのです”
古代の女性、レディ・サピエンス。 その社会的な地位は、決して低いものでは
ありませんでした。
かつて考えられていた女性のイメージとは、大きく異なるものだったのです。
かつて、男性の性的欲望を満たし、子孫を残す役割を強いられていた女性。
レディ・サピエンスに求められていたのは、ふくよかさだけだったのでしょうか?
フランス北部にあるルナンクール遺跡です。2019年、フランスの研究チームが
発掘調査を行いました。 発見されたのは、バラバラになったカケラです。
復元作業によって、女性の像だと分かりました。 お尻は、大きく突き出し、
豊かな乳房は垂れ、髪は縦と横の線で表現されています。 実は、このような
女性像は、世界各地で発見されています。
ユーラシア大陸では、これまで、およそ260体が確認されました。 その多くが
乳房とおなかが大きく、ふくよかな女性を表しています。 なぜ、このような
女性像ばかりが作られたのでしょうか?
その謎を紐解く鍵が、ドイツの深い山の中で見つかりました。 人類が初めて
女性像を作ったとされる、3万5000年前の遺跡です。
その頃、人類は、アフリカからヨーロッパに移動していました。 寒い冬、その
一部は、シュヴァーベンジュラ山脈の洞窟で暮らしていました。
2008年、この洞窟で、人類最古と呼ばれる女性像の1つが発見されました。
“女性像は、ここで、バラバラの姿で見つかりました”
女性像の大きさは、6センチほど。 マンモスの牙から作られました。 現在、
女性像は、ドイツの博物館に展示されています。 人類最古の芸術品と呼ば
れています。
“この女性像の特徴は性を表している事です。豊かな胸と女性を示す陰部が
描かれています。足など、体の一部が欠けているのは、表現する必要が
なかったからです。そして、女性の顔さえも、この像には存在していません。
つまり狩猟採集の暮らしを表しているのではなく、女性である事の本質だけを
表しているのです。こうした女性像には、妊娠や出産、生命の力強さや豊穣
という概念のみが表されているのです”
数多く発見されている、ふくよかな女性像。 それは、生命を生み出す力への
祈りを表すものだったのです。 しかし、その一方で、ふくよかな姿ではない
女性像の発掘も相次いでいます。
こちらは、縄文時代に作られたスリムな女性の土偶です。 その、おなかには
妊娠を象徴する、ふくよかさは見られません。 こうしたスリムな女性像は、
日本各地で数多く見つかっています。 一体、何を物語っているのでしょうか?
“妊婦というよりも、やはり妊娠前の、婚姻前の若い女性というものをイメージ
して作られた可能性も、あるのではないかなと思います”
でもなぜ、婚姻前の女性をモチーフにした土偶が、作られるようになったので
しょうか? その理由には、食料が安定しない狩猟採集社会の実情が、大きく
関係していたといいます。
“十分、食べ物が採れないような、そういう時に、たくさんつながりがあって、
助けてと言う相手があると助けてもらえる。そういう風なネットワークを広げて
行く事で、みんなで生き残って行く事ができるのです”
食料がとれない日々が続けば、集落や家族は飢え死にします。こうした時、女
性は血縁の絆を利用して自分の実家や親戚の集落に助けを求めていました。
この様なネットワークを広げて行く鍵となったのが、婚姻前の若い女性だった
のです。
“社会的なネットワーキングを結べるものとしての若い女性という事に祈りの
対象が、シフトしているのではないかという風な事を考えています”
古代の女性像は、生命をもたらす豊かさを意味するだけでなく、社会の絆と
しての象徴でもありました。
レディ・サピエンスは、多様な祈りの対象となって行ったのです。
2019年、フランス北部の古代遺跡で、驚きの発見がありました。2万7000年の
時を経て現れたのは小さな女性像。 古代のホモ・サピエンスの女性レディ・
サピエンス。 実は、かつての考古学では男性優位の思想に支配され、女性
については、ほとんど検証されていませんでした。
“人類の基本が狩猟であり、つまり男性が人類の基本でした。女性は人類の
進化には、参加していない事になっていたのです”
しかし近年、世界各国の新しい世代の研究者によって、レディ・サピエンスの
実像が明らかになって来ました。 女性は参加せず、男性だけが行っていたと
考えられていた狩猟。 遺跡の調査などから、意外な事実が分かりました。
“男性と女性が、連携して狩りを行っていたのです”
更に出産と子育てに明け暮れていたとされる女性の役割にも、大きな間違い
がある事が分かって来ました。 最新の科学的分析によって、レディ・サピエ
ンスの子育てが、明らかになりつつあるのです。
“女性が生涯を通して、子育てに追われていたとは、考えられません”
そして洞窟に残された壁画の分析から、男性だけとされていた芸術活動にも
女性が参加していた事が分かって来ました。
“大人の女性が、この洞窟に足を踏み入れています”
古代の女性、レディ・サピエンス。 最新の研究から見えて来た、その素顔を
描きます。
レディ・サピエンスの実像をたどる旅。 まず、2万7000年前の旧石器時代に
さかのぼります。 こちらは、フランス南部にある、クロ・マニョン遺跡です。
最初の発掘が行われたのは、1868年。 旧石器時代の複数の人骨が発見
されました。 調査に当たったのは、考古学者のルイ・ラルテ(1840-1899)。
骨と一緒に埋められていた石器を詳しく調査し狩猟に使われた事を突き止め
ました。
“当時、狩猟は男性が行うという、先入観が支配していました。人骨の近くに
獲物とみられる動物の骨や石器があったので、男性の骨としたのです”
ところが2006年に行われた再調査によって、人骨には女性のものも含まれて
いた事が分かりました。 骨盤など、骨の微妙な形の違いによって、女性だと
判明しました。 でも、なぜ女性の存在は、見落とされてしまったのでしょうか?
“19世紀では女性の地位は認められていませんでした。女性は家にいて男性
が社会や経済に重要な地位を占めていました。そのため旧石器時代でも同じ
だろうと考えられていたのです。狩猟を行う男性こそが人類を進化させ、女性
は、家にいて子供の面倒を見ていた程度だと、思い込まれていたのです”
実は当時、このような男性中心の考え方は、社会全体に浸透していました。
こちらは、19世紀の芸術家が描いた絵画です。 家の中で子育てする女性や
男性に守られる女性の姿が表現され、女性への偏ったイメージが増幅されて
いたのです。
“当時、フランス芸術アカデミーでは、聖書や古代をテーマとする事が重要でし
た。有名な画家になるために、必要不可欠だったのです”
更に女性に求められていたのは、男性の性的欲望の対象としての役割です。
女性は、男性たちの闘いによって得られる、戦利品だったのです。
“これらの絵画は、理想の女性像をもとに、欲望の対象として描いています。
このような絵画の表現が、映画にも強く影響を及ぼしています”
こらちは、1920年代に制作された、古代の社会をテーマにした映画です。
女性は狩猟の勲章であり、男性の征服欲を満たすように描かれています。
1960年代の映画では、ビキニを着た女性が登場。 セックスシンボルとして、
くびれた体と豊かな胸を強調しています。
“これらの作品は、男性が女性に対して抱く幻想を、大いに物語っています。
それは官能的な美しさ、そして子供を守る母性です”
男性の一方的な視点で描かれる事が多かった古代の女性レディ・サピエンス
しかし、今、その真の姿が明らかになって来ています。 その手がかりとなる
のが、イタリアとフランスの国境にある、ヴェンティミーリア洞窟遺跡です。
1872年、ここで、旧石器人の埋葬跡が見つかりました。 当時の考古学者は
その見た目から男性と判断し、マントンの男と名付けました。 ところが、近年
行われた分析によって、女性だと分かったのです。
“遺跡から見つかった骨は、とても頑丈だったため、マントンの男と呼ばれまし
た。しかし実際には、とてもガッシリとした体格の大柄な女性だったのです。
私の妻が骨盤に女性的な特徴を発見し女性である事が明らかになりました”
女性だと断定する決め手となったのは、骨盤のくぼみの大きさです。 男性の
骨盤のくぼみに比べ女性では、出産の時に赤ちゃんが通りやすいように広く
なっています。分析の結果、この骨は、カヴィヨンの婦人と名付けられました。
洞窟で埋葬されていたカヴィヨンの婦人。 発掘調査によって、手厚く葬られて
いた事が分かりました。
“カヴィヨンの婦人は、一族の中で重要な地位にいたと考えられます。埋葬品
から、馬を象徴とした盛大な葬儀が行われた事が分かったからです。彼女の
顔の横には、馬の骨で出来た道具が置かれていました。更に、お墓の上には
馬をモチーフとした飾りがありました。そして近くの壁には素晴らしい馬の絵が
描かれていたのです”
他にも、カヴィヨンの婦人のお墓では、重要な意味を持つ埋葬品が見つかりま
した。 細長い石の刃。 そして、鹿の歯で美しく飾られた、かぶり物です。
カヴィヨンの婦人は、このかぶり物を身につけ、体を赤く彩られ、埋葬されたと
考えられています。
“石の刃や美しい装飾品は、遠く離れた土地まで行って、ようやく入手できる
貴重なものです。でも、なぜ当時の人たちは大切な品々を奉げたのでしょう。
恐らく、死後の世界へ旅立つ時に必要になるであろうと、儀礼品として持たせ
たのでしょう。これはつまり人々が、カヴィヨンの婦人を大いに尊敬していた事
を意味しているのです”
古代の女性、レディ・サピエンス。 その社会的な地位は、決して低いものでは
ありませんでした。
かつて考えられていた女性のイメージとは、大きく異なるものだったのです。
かつて、男性の性的欲望を満たし、子孫を残す役割を強いられていた女性。
レディ・サピエンスに求められていたのは、ふくよかさだけだったのでしょうか?
フランス北部にあるルナンクール遺跡です。2019年、フランスの研究チームが
発掘調査を行いました。 発見されたのは、バラバラになったカケラです。
復元作業によって、女性の像だと分かりました。 お尻は、大きく突き出し、
豊かな乳房は垂れ、髪は縦と横の線で表現されています。 実は、このような
女性像は、世界各地で発見されています。
ユーラシア大陸では、これまで、およそ260体が確認されました。 その多くが
乳房とおなかが大きく、ふくよかな女性を表しています。 なぜ、このような
女性像ばかりが作られたのでしょうか?
その謎を紐解く鍵が、ドイツの深い山の中で見つかりました。 人類が初めて
女性像を作ったとされる、3万5000年前の遺跡です。
その頃、人類は、アフリカからヨーロッパに移動していました。 寒い冬、その
一部は、シュヴァーベンジュラ山脈の洞窟で暮らしていました。
2008年、この洞窟で、人類最古と呼ばれる女性像の1つが発見されました。
“女性像は、ここで、バラバラの姿で見つかりました”
女性像の大きさは、6センチほど。 マンモスの牙から作られました。 現在、
女性像は、ドイツの博物館に展示されています。 人類最古の芸術品と呼ば
れています。
“この女性像の特徴は性を表している事です。豊かな胸と女性を示す陰部が
描かれています。足など、体の一部が欠けているのは、表現する必要が
なかったからです。そして、女性の顔さえも、この像には存在していません。
つまり狩猟採集の暮らしを表しているのではなく、女性である事の本質だけを
表しているのです。こうした女性像には、妊娠や出産、生命の力強さや豊穣
という概念のみが表されているのです”
数多く発見されている、ふくよかな女性像。 それは、生命を生み出す力への
祈りを表すものだったのです。 しかし、その一方で、ふくよかな姿ではない
女性像の発掘も相次いでいます。
こちらは、縄文時代に作られたスリムな女性の土偶です。 その、おなかには
妊娠を象徴する、ふくよかさは見られません。 こうしたスリムな女性像は、
日本各地で数多く見つかっています。 一体、何を物語っているのでしょうか?
“妊婦というよりも、やはり妊娠前の、婚姻前の若い女性というものをイメージ
して作られた可能性も、あるのではないかなと思います”
でもなぜ、婚姻前の女性をモチーフにした土偶が、作られるようになったので
しょうか? その理由には、食料が安定しない狩猟採集社会の実情が、大きく
関係していたといいます。
“十分、食べ物が採れないような、そういう時に、たくさんつながりがあって、
助けてと言う相手があると助けてもらえる。そういう風なネットワークを広げて
行く事で、みんなで生き残って行く事ができるのです”
食料がとれない日々が続けば、集落や家族は飢え死にします。こうした時、女
性は血縁の絆を利用して自分の実家や親戚の集落に助けを求めていました。
この様なネットワークを広げて行く鍵となったのが、婚姻前の若い女性だった
のです。
“社会的なネットワーキングを結べるものとしての若い女性という事に祈りの
対象が、シフトしているのではないかという風な事を考えています”
古代の女性像は、生命をもたらす豊かさを意味するだけでなく、社会の絆と
しての象徴でもありました。
レディ・サピエンスは、多様な祈りの対象となって行ったのです。
| ホーム |