2020年11月05日 (木) | 編集 |
第2121回「去年の今頃は何をしていましたか?」
そのプロジェクトを推進していたのが、アルヴァレスさんでした。
“誰もが彼のプロジェクトに魅了されました。 私が選ばれたのは幸運でした”
“私は、いくつかのシミュレーションを行い、それをアルヴァレスさんが、大変、
気に入ってくれたのです”
そのプロジェクトの対象は、エジプトのピラミッド。
ミューオンを利用して、ピラミッドの内部を、透視しようというものでした。
最も有名な世界遺産であるピラミッドは、謎に満ちた存在です。
建設当初の文献は、ほとんどなく、どうやってつくられたのか?
何のために、つくられたのか?
専門家の間でも、議論は、いまだに決着を見ていません。
“アルヴァレスさんがピラミッドに関心を持った理由は、ピラミッドがどうやって
建造されたのか?謎のままであると知ったからでした”
“それは現在も、論争が続いているテーマです”
“そこでアルヴァレスさんは、その建造方法について独自に考えはじめ、
やがて、あるアイデアを思い付いたのです”
“それが、ミューオンを使えば、内部構造を突き止められるはずだというプラン
でした”
アルヴァレスさんはピラミッド調査の目的を、ミューオンによる透視に切り替え
ました。 では、どのピラミッドを、のぞき見るのか?
世界最大のピラミッドといえば、クフ王のつくった大ピラミッド。
その隣にあるのが、クフ王の息子、カフラー王がつくったピラミッドです。
大きさも形も、よく似た2つのピラミッドには、内部に大きな違いがあります。
クフ王の大ピラミッドは、地下の間の他、女王の間や、王の間など、多くの
部屋が組み込まれています。
ところが、カフラー王のピラミッドでは、地下の間以外、ほとんど部屋が見つ
かっていません。 アルヴァレスさんは、この違いに疑問を抱きました。
“カフラーは、大ピラミッドを建てたクフ王の息子で、2番目のピラミッドを建てた
人物です”
“クフ王のピラミッドは、多くの部屋を精巧に組み込んで建設されていますが、
その建設を幼い頃から目の当たりにして来たのが、息子のカフラーです”
“その彼が、自分のピラミッドを建てるにあたって何の工夫もなく、ただ石を
積み上げたはずはないと、アルヴァレスさんは考えたのです”
そこでアルヴァレスさんは、カフラー王のピラミッドを透視するというプロジェクト
を計画しました。 なぜ、ミューオンで透視できるのか?
宇宙から来る素粒子が、物体を通過する力は、さまざまです。
例えばニュートリノは地下1000メートルどころか、地球そのものも通り抜けます。
ところがミューオンは、エネルギーが高いものでも、地下数百メートルまでしか
届きません。
岩盤など、密度の高いものに遮られ、どんどん通り抜ける数が減るのです。
ミューオンの、この特徴に、アルヴァレスさんは着目しました。
ピラミッド内部に、ミューオンを観測できる装置を設置します。
四方八方から、やって来るミューオンは、ピラミッドの岩石を通り抜け、装置に
降り注ぎます。 観測装置は、それを、このように幅広く受け止めます。
観測できるミューオンの数は、途中の岩石に遮られる為、多くはありません。
しかし、もし途中に未知の部屋があったら、どうなると思いますか?
その方向は、遮る石が少なくなるため、ミューオンの数が増えます。
受け取る装置の側から見ると、やって来るミューオンの数が多い方向、少ない
方向が分かります。
そのミューオンが多い方向に、未知の部屋があるばずなのです。
“岩石が薄ければ、ミューオンが全部通過するので、何も見えません”
“逆に分厚ければ、1つも通過できないので、やはり、見えません”
“ミューオンは、ピラミッド内部を見るのにピッタリなのです”
アルヴァレスさんたちは、ピラミッドに入るギリギリの大きさの観測装置をつくり
ました。
当時の記録フィルムを見ると、装置が、いかに巨大だったか分かります。
この装置を使った測定で得られたのが… この画像。
アルヴァレスさんたちが捉えた、ミューオンの量を示しています。
真ん中が、ピラミッドの頂点。
観測装置までの距離が長いため、ミューオンの数は少なく、白っぽくなってい
ます。
周りに行くほど、岩の厚さが薄くなるので、徐々にミューオンの数が増え、黒く
なっています。 これを見る限り、途中に空間のようなものは見当たりません。
1970年にまとめられた論文には、カフラー王のピラミッドに大きな部屋はない
ようだと、書かれています。
この時の調査では、クフ王の大ピラミッドのような複雑な内部構造は見つから
なかったのです。
“何も見つからなくて残念だったねと、言われました”
“でもアルヴァレスさんは、それまでの人生で数々の実験を行い、失敗にも
慣れていました。 もちろん、失望していましたよ…”
“でも物理学の世界では、いわゆる結果なし・結果ゼロは、よくある事なので
慣れていたのです”
何も見つからなかったという、観測結果。
それは、カフラー王のピラミッドに、そもそも、未知の部屋がなかったのか?
それとも、透視に失敗したという事なのか? 真相は分かりませんでした。
いずれにせよ、それ以降ミューオンを使ったピラミッド調査が行なわれる事は
ありませんでした。
事態が大きく動くのは、およそ50年後。 2015年の事になります。
そのプロジェクトを推進していたのが、アルヴァレスさんでした。
“誰もが彼のプロジェクトに魅了されました。 私が選ばれたのは幸運でした”
“私は、いくつかのシミュレーションを行い、それをアルヴァレスさんが、大変、
気に入ってくれたのです”
そのプロジェクトの対象は、エジプトのピラミッド。
ミューオンを利用して、ピラミッドの内部を、透視しようというものでした。
最も有名な世界遺産であるピラミッドは、謎に満ちた存在です。
建設当初の文献は、ほとんどなく、どうやってつくられたのか?
何のために、つくられたのか?
専門家の間でも、議論は、いまだに決着を見ていません。
“アルヴァレスさんがピラミッドに関心を持った理由は、ピラミッドがどうやって
建造されたのか?謎のままであると知ったからでした”
“それは現在も、論争が続いているテーマです”
“そこでアルヴァレスさんは、その建造方法について独自に考えはじめ、
やがて、あるアイデアを思い付いたのです”
“それが、ミューオンを使えば、内部構造を突き止められるはずだというプラン
でした”
アルヴァレスさんはピラミッド調査の目的を、ミューオンによる透視に切り替え
ました。 では、どのピラミッドを、のぞき見るのか?
世界最大のピラミッドといえば、クフ王のつくった大ピラミッド。
その隣にあるのが、クフ王の息子、カフラー王がつくったピラミッドです。
大きさも形も、よく似た2つのピラミッドには、内部に大きな違いがあります。
クフ王の大ピラミッドは、地下の間の他、女王の間や、王の間など、多くの
部屋が組み込まれています。
ところが、カフラー王のピラミッドでは、地下の間以外、ほとんど部屋が見つ
かっていません。 アルヴァレスさんは、この違いに疑問を抱きました。
“カフラーは、大ピラミッドを建てたクフ王の息子で、2番目のピラミッドを建てた
人物です”
“クフ王のピラミッドは、多くの部屋を精巧に組み込んで建設されていますが、
その建設を幼い頃から目の当たりにして来たのが、息子のカフラーです”
“その彼が、自分のピラミッドを建てるにあたって何の工夫もなく、ただ石を
積み上げたはずはないと、アルヴァレスさんは考えたのです”
そこでアルヴァレスさんは、カフラー王のピラミッドを透視するというプロジェクト
を計画しました。 なぜ、ミューオンで透視できるのか?
宇宙から来る素粒子が、物体を通過する力は、さまざまです。
例えばニュートリノは地下1000メートルどころか、地球そのものも通り抜けます。
ところがミューオンは、エネルギーが高いものでも、地下数百メートルまでしか
届きません。
岩盤など、密度の高いものに遮られ、どんどん通り抜ける数が減るのです。
ミューオンの、この特徴に、アルヴァレスさんは着目しました。
ピラミッド内部に、ミューオンを観測できる装置を設置します。
四方八方から、やって来るミューオンは、ピラミッドの岩石を通り抜け、装置に
降り注ぎます。 観測装置は、それを、このように幅広く受け止めます。
観測できるミューオンの数は、途中の岩石に遮られる為、多くはありません。
しかし、もし途中に未知の部屋があったら、どうなると思いますか?
その方向は、遮る石が少なくなるため、ミューオンの数が増えます。
受け取る装置の側から見ると、やって来るミューオンの数が多い方向、少ない
方向が分かります。
そのミューオンが多い方向に、未知の部屋があるばずなのです。
“岩石が薄ければ、ミューオンが全部通過するので、何も見えません”
“逆に分厚ければ、1つも通過できないので、やはり、見えません”
“ミューオンは、ピラミッド内部を見るのにピッタリなのです”
アルヴァレスさんたちは、ピラミッドに入るギリギリの大きさの観測装置をつくり
ました。
当時の記録フィルムを見ると、装置が、いかに巨大だったか分かります。
この装置を使った測定で得られたのが… この画像。
アルヴァレスさんたちが捉えた、ミューオンの量を示しています。
真ん中が、ピラミッドの頂点。
観測装置までの距離が長いため、ミューオンの数は少なく、白っぽくなってい
ます。
周りに行くほど、岩の厚さが薄くなるので、徐々にミューオンの数が増え、黒く
なっています。 これを見る限り、途中に空間のようなものは見当たりません。
1970年にまとめられた論文には、カフラー王のピラミッドに大きな部屋はない
ようだと、書かれています。
この時の調査では、クフ王の大ピラミッドのような複雑な内部構造は見つから
なかったのです。
“何も見つからなくて残念だったねと、言われました”
“でもアルヴァレスさんは、それまでの人生で数々の実験を行い、失敗にも
慣れていました。 もちろん、失望していましたよ…”
“でも物理学の世界では、いわゆる結果なし・結果ゼロは、よくある事なので
慣れていたのです”
何も見つからなかったという、観測結果。
それは、カフラー王のピラミッドに、そもそも、未知の部屋がなかったのか?
それとも、透視に失敗したという事なのか? 真相は分かりませんでした。
いずれにせよ、それ以降ミューオンを使ったピラミッド調査が行なわれる事は
ありませんでした。
事態が大きく動くのは、およそ50年後。 2015年の事になります。
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