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謎のダークマターに挑む驚異の銀河マップとは?
2020年10月30日 (金) | 編集 |
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神経を遣う手作業は、3カ月間続きました。

ところが、並べ終えたCCDの動作確認をすると…。

1つから、全く信号が出ていません!

“全部、準備を整えてから、じゃあ、スイッチ・オンして、最後、歓声を上げて
終わるかなと思ったんですよね。 1発で… おお、これで出来たぜって…”

“そしたら、何か、黒い、こう… 何て言うか、動いてないっていうサインが
出ちゃって…”

“これは、ちょっと、本当は、もう、我々の手に負えないのかなって、半分、
絶望しかかったのですが…”

原因は、基板にたまった静電気が、CCDまで伝わった事でした。

故障したCCDだけを、手を触れずに交換しなければなりません。

“天文学者っていうのは、欲張りなものなのだと思いますけど…”

“多くの人に、やはり、このスペックが大変だと…”

“CCD、もちろん、手で触る事はできない訳なので、これを、どうやって交換
するかっていうのは、CCDが壊れた時に、非常に悩んだ点ですね…”

行き詰まった開発チームが向かったのは天文台内にある先端技術センター。

研究者の要望に、オーダーメードで対応します。

手を触れずに、CCDを交換するための道具が、設計される事になりました。

1週間後、その道具は届けられました。

“これが1番低い状態で、ここからCCDを上に外しますという時はこのツマミを
また回して、そうすると少しずつ、この台が上に上がって行く…”

使ってみると… 隙間なく並べられたCCDが、押し出されました。

こうして、CCDを116枚並べた、世界で1つのカメラ、HSCが完成したのです。

“今度は、あんだけ、たくさん並べるのは、もうちょっと…”

“これ以上は無理って言われてますから…”

“ああいう大きいものは、もう作らないとは思いますが、見たいものがあって
作ってるっていうのは、まぁ、執念だと思いますよ…”

“これが、どうしても見たいんだっていうのがあるからこそ、出来たのだと思い
ますね…”

2012年3月。 HSCは、ついにハワイへと送り出されました。

マウナケア山頂でも、開発チームの挑戦は続きました。

それが… 広い視野を1度に撮影すること。

博士は、ある場所に目を付けていました。

すばる望遠鏡の1番上にある、主焦点。

他の望遠鏡では、カメラを設置しない場所です。

通常の反射望遠鏡では、光は2回反射して、主鏡の下に置かれたカメラに
入ります。

その常識を破って、主鏡から近い主焦点にカメラを搭載すれば、視野を10倍
広く出来るのです。 しかしHSCは、3メートルを超す巨大な装置です。

これほど大きな装置を主焦点に取り付けるのは、世界初の挑戦でした。

この難題に、博士と取り組んだのは、望遠鏡のエンジニアチームです。

HSCを主焦点に取り付けたいと最初に聞いた時、不可能だと感じていました。

“すばる望遠鏡の、全然、スペック外ですね…”

“正直な話し… まぁ、無茶だなと…”

“それを更に大きな、背の高いものにしろというのは、最初は、いい加減にして
ほしいと思いましたね…”

‘いや、今ちょっと、彼が最初に、そう思われてたっていうのは、実は、初めて
聞いたような気がするのですが…’

どうすれば、巨大なHSCを、主焦点へ運ぶ事が出来るのか?

主焦点の真下には、直径8メートルを超す主鏡があります。

ネジ1つ、落とす訳にはいきません!

しかも高さ3メートルのHSCを、天井ギリギリから、はめ込む必要がありました。

“これぐらいですね… 天井を削って合わせました…”

“合わせたのですが、それでもギリギリの隙間に、落とし込むといいますか…”

“約20ミリですね… その隙間に合わせなきゃいけない…”

巨大なHSCを、僅かな隙間に搭載する。

当初は、クレーンでの遠隔操作を考えていました。

しかし最後は、人の手と目で、やる事が確実だと判断しました。

博士たち開発チームとの、ギリギリの検討が重ねられました。

“あそこに見える窓があるのですが、窓の所からHSCが運ばれて出てきます”

2012年8月。 搭載試験が始まりました。

エンジニアチームは、3人がかりで位置を合わせて行きます。

僅かな隙間に、HSCを、はめ込みます。

‘何とか… 何とか入るようになりましたねぇ…’

“すばるの特長は、こんな重いものを載せられる強い構造なのです”

“これ以上、強い望遠鏡は他にはないので、すばるのみです”

“ギリギリいっぱいですね…”

こうして、すばる望遠鏡の主焦点に搭載されたHSC。

2013年1月。 試験観測が行なわれました。

観測したのは、天の川銀河の隣にある、アンドロメダ銀河(M31) です。

116枚並べたCCDが、銀河全体を、1度に捉えていました。

通常の主鏡の下に置くカメラの視野は、この範囲。 (ほんの少ししかない)

前例のない広い視野が、実現したのです。

HSCの能力は、視野の広さだけではありません。

その解像度は普通はガスのように見える星の集まりが星1つ1つに分かれて
見えるほど。奥に見える白い無数の点は、数億光年かなたにある銀河です。

“僕の立場からは、どうしても、これが載せたいんです”

“世界で、すばるが世界一になるには、これが出来ないと、いけないんです”

“という事を言いつつ、これが欲しいんですっていうのを…”

‘ハハハ… まぁ、我々としては、サイエンティストのワガママがないと、前には
進めないので、出来る限りの事はやらないといけないとは常々思ってます…’

Q: ワガママですか?

‘いやホント、科学者のワガママがないと、いいものは作れないとは思います’

世界一を目指した、HSC。

あのハッブル宇宙望遠鏡が1000年かかる領域を5年で観測可能にしました。

広い視野と、8億7000万画素のカメラが捉えた、驚異の銀河マップ。

ここから、いよいよ、謎の物質、ダークマターの手掛かりに迫ります。